木原音瀬という小説家について話をしようか

2008/05/13 生活・人生

タグ: bl 増田 book 小説 801 あとで読む BL 気になる novel

きはらおとせではない。このはらなりせと読む。彼女はボーイズラブ作家である。男同士の恋愛を主軸にした物語を精力的に書いている。
いや、ここで引く前にちょっと聞いてほしい。まずボーイズラブの現状を知ってもらいたい。
諸兄がボーイズラブに抱くイメージはどんなものだろうか。例えば王子様、例えば美少年、例えば美形青年実業家。そんな見目麗しい男たちがキャッキャウフフと乳繰り合っているというイメージだろうか。それはあながち間違いではない。確かにそういった作品群が大半を占めるからだ。ただし、それだけかというと答えは否だ。
ボーイズラブの懐は思ったよりも深い。時代物あり、ファンタジーあり、サスペンスあり、不細工あり、さえない親父あり、バツイチもありだ。人気作家に限られるが、男同士であれば何を書いてもいい土壌がある。木原音瀬は間違いなくその「何を書いてもいい」という特権を与えられた作家だ。
彼女の作風をひとことで言うと「痛い」。キャッキャウフフなどは微塵もしていない。人は愚かで、人を愛することによってさらにここまで愚かになるのかという現実を、圧倒的筆力でこれでもかこれでもかと叩きつけて来る。痴漢冤罪で収監された男、HIV感染者の男、死体を隠した男、女装が趣味の男、肥満体型の男…彼らが紡ぎ出す恋情そして執着は、私たちの心に深く楔を打ち込む。ここまで高品質の愛憎小説を、彼女のような頻度で上梓している作家は一般誌でもそうはいないだろう。
木原音瀬の人気は、まず、彼女の本を出すためだけのレーベルがあることで証明されている。彼女の小説と、そのコミカライズ作品のみ掲載されたムックも現在4号まで出ている。例えは難しいが、乙一西尾維新クラスだと思ってくれていい。毎月80冊前後出ているボーイズラブ小説界において、間違いなくトップクラスの人気を誇っている。
ただしその人気が、彼女の実力に相応しいものかというと、そうでもない気がしている。評価が高すぎるのではない、低すぎるのだ。ボーイズラブ界は良くも悪くも読者が熱心で財布の紐がゆるい。需要と供給が小さな輪の中で完結してしまっている。いくらボーイズラブ読者が多くなったとはいえ、分母となる絶対数が足りないのだ。これでは高評価にも上限がある。
もちろん私は彼女に、一般向け作品を書けと言いたいわけではない。今のままの作風でなんら不足はない。考えてみれば、日本の文壇で同性愛表現が完全にタブーだったことなど、一度もないのだ。ニアボーイズラブ作品に至ってはそこらじゅうに転がっている。問題なのは、ボーイズラブ読者以外の人々に彼女が知られていないこと。店頭でもまず足を運ばない書棚に並べられていることなのだ。
まずは彼女を知って欲しい。店頭が恥ずかしければAmazonでも7&Yでもいい。何ならBOOK OFFでもいい(後で新刊を購入するのなら)。よしながふみを、オノ・ナツメ佐原ミズを見出した人々に、いま少しの歩み寄りを願うのは贅沢なことだろうか。木原音瀬のような類まれな才能と作家性を併せ持った作家を、私たちは天井のある籠の中で飼い殺している。そのことに対して罪悪感を持つ程に、私は彼女の作品を愛している。どこに出しても恥ずかしい木原音瀬信者なのだ。

http://anond.hatelabo.jp/20080513132239

【ブクマコメント】
id:yuripop: 私のおすすめは「WELL」と「リベット」です。檻と箱は、小さい子どもがある意味物語のために死ぬのが納得いかない人にはすすめない。
id:y_arim: 「BLではない」とか「既存レーベルをはみ出し」とかいうブコメで、ヤマシタトモコ中村明日美子を思いだした。
id:aquapiano: 増田にこんなものがあったなんて。
id:d14a: じゃあ、読もうか / でも、別カテゴリの作品と比べてとかいう表現はがっかり感があるね
id:webmarksjp: novel
id:soundsea: ラノベにせよBLにせよ「もったいない」という評価をきくとなんか座りが悪い。木原音瀬有川浩が既存レーベルをはみ出した理由はわかるけれども
id:roki_a: 木原がBLじゃないって言われるのは、恋愛がテーマなんじゃなく、恋愛でむきだしになる人間の矮小さがテーマだからじゃないかと思った。
id:vertigonote: 実はまだ読んでなかったりするの。木原さんはBL小説界の(かつての)よしながふみみたいな存在?って思っていたんだけど、まだそこまでの認知度じゃなかったんだなー
id:cazmori: ちょっときになる。
id:vancleef: BLには抵抗があるのだが、この文章には読んでみたいと思わせるような勢いがある
id:KoshianX: そこまでいうならおすすめ本の何冊かはリンクするべき
id:frog78: 覚えておく
id:Southend: とりあえず、佐原ミズ夢花李=BL系のヒト、ということを初めて知って驚いたレベルの自分にはちょっとまだハードルが高いかも。
id:abc1cba: 男だけど一応ブクマ
id:ka-na-ta: 冷静にしっかり練られていながらも熱さが溢れ出てる文章。愛を感じる。木原音瀬三浦しをんのレビューで知りましたがハードル高そうでまだ読んでない・・・
id:sdv: BLを精力的に書いているというフレーズで思考が吹っ飛んだ。
id:spinnk: 「これはBLで終らせるのはもったいない」つっても、結局は好みの問題だしなあ(自分も木原さんファンだけど)。ただ、BLに限らず それぞれのジャンルにそれぞれの魅力があるから、好き嫌いは勿体ないかな、とは思う
id:detroit86: 気になる
id:CrowClaw: この作家は知らないが、筆者の言い分はファンの姿勢として完全に正しいだろう。出来れば記名で書いて欲しかったぐらい/「狭い範囲で完結していい」とか言う奴こそ最大の敵。
id:orihime-akami: いつか読んでみたいな。

http://b.hatena.ne.jp/entry/anond.hatelabo.jp/20080513132239